大河ドラマ「おんな城主 直虎」 第44回 井伊谷のばら 感想

カテゴリ:おんな城主 直虎
日時:2017/11/05 22:23

徳川(万千代パート)はまあまあ楽しめたのですが、おとわが出てくると退屈。戦国時代としてはごくまっとうな考えの万千代を変な論理で否定する、実に気持ち悪い女になってしまいました。お前、もうイラナイ。

ではドラマスタート。万千代の初陣について語り合うおとわと祐椿尼。そこで祐椿尼が胸を押さえる健康不安な描写があざとく挿入されます。天正6年ですからね、祐椿尼の没年ですね。おとわも4年後に死んじゃうわけですが。

万千代とイノッチは田中城攻めで初陣を飾ります。しかし出番は与えられず。そこへ徳川信康が相変わらずさわやかに登場。彼が連れてきた小姓の近藤武助が元服を許されたと聞き、ますます焦る万千代さん。

そしてちらつく不審者の影。武田の間者から家康を守ったという説を使うつもりのようです。

家康たちが戻ってくると、万千代が居眠り中。

榊原康政「殿の寝所で眠りこけておるというのか?」 確かに、こりゃあひどい。イノッチや家康が起こしても目を覚まさない万千代。ここまでくると、寝たふりをしているとしか思えません。武田の間者イベント発生なら、ここは万千代がミスる場面ではなく活躍する場面になるはずです。

薬湯を要求する家康。起きない万千代。すると、イノッチが代わりに薬湯が作れる者を探しに行きます。そしてイノッチが連れてきたのは、武助。やはりこやつが間者ですか。

サクッと薬湯を作る武助。すると、やはり起きていた万千代が武助の腕をつかんで毒味を要求。進退窮まった武助が家康に斬りかかると、万千代が肩を負傷しつつ取り押さえて解決。

そして康政に問われて種明かし編です。薬箱の結び目が違っていたから気がついた、と。ただ、蝶結びが片結びになっていたから、というのはちょっと残念。間者が蝶結びにしてたらアウトじゃん。ここは、特殊な結び方をしていたとかにしないと。

ちなみに、ノベライズでは薬箱はひもで結ぶのではなく、「口金の向き」で気付いたことになっています。ビジュアル的にはひもに変えて正解だったと思います。また、ノベライズはもう少し詳しく語っています。

誰かが薬箱に触れたと気付いた万千代さん。

万千代「その者は私が薬を出さぬと知れば、みずから進み出て薬を淹れ、井伊の薬で死んだと大騒ぎするはずと思うたのです」
康政「それで寝たふりを」
万千代「はい。ただ、出てきた者がたくらんだ者とは限りませぬ。そこは賭けでございますゆえ、毒味を迫ってみることにいたしました」

万千代は、この功により1万石を与えられます。江戸時代の基準なら立派な大名ですが、この時点では家康自身が大名にすぎないので、徳川家の大身の家臣と表現するしかないでしょう。

薬箱の結び目の件で、康政が万千代に一目置いたことは表情からも読み取れました(さすが尾美としのり、絶妙な演技するなぁ)が、ノベライズではもっと明らかな場面が用意されていました。ドラマではカットされていましたが。

加増を伝えられた万千代が退出した後、1万石は過剰ではないかと漏らす酒井忠次

家康「わしの命に1万石の値打ちはないというのか」
忠次「さようなことではございませぬが、寝所での手柄で1万石など」
康政「相応にございましょう。殿のお命に加え、武田の岡崎への働きかけが明らかになった。これは1万石に値しましょう」

と、万千代の加増を支持します。なにげに、「武田の岡崎への働きかけ」という次につながる重要なキーワードも口にしていますが。しかし、付け足しは口実だったようで、「忠勝が、そんな康政の顔を何か言いたげに横目で見やる」という描写が続きます。

康政「何だ?」
忠勝「……いや、損な性分じゃと思うてのぅ」

康政が万千代を高く評価しているのに、素直にそうとは言わないところを忠勝に見透かされた、というところでしょうか。結構いい場面なので、髙嶋政宏と尾美としのりの演技を見てみたかったものです。

一方の万千代は、「寝所での手柄」の噂を耳にし、元服を急ぎます。ここから、全体的に論理が破綻してきます。

万福「元服となれば、若が正式に井伊の当主となるということですよねぇ」

別に元服=当主というわけではないのですが……。まあ、武家として井伊は廃絶状態なので、万千代が元服して井伊を再興すれば、当主になるということにはなるでしょうか。

万福「となれば、おとわ様に家督を譲ると言っていただかねばならぬのでは」

家康がおとわを井伊の当主と認めるなら、おとわが譲らない限り万千代は当主になれない。それはいいが、万千代が元服するのを制限するものではない。なぜコイツらは、元服と家督相続をごっちゃにして語っているんだ?

このヘンテコな論理は、祐椿尼の呼び出しで万千代が井伊谷に戻った後も続きます。

おとわ「井伊谷を安堵し直してもらうことは考えておらぬな」
万千代「おとわ様は井伊谷が誰のものになろうと、かまわず井伊谷のために尽くされるはず。ならば、それこそ誰の地となろうが関わりのない話かと存じますが」

万千代の言う通りだな。

おとわ「ここは近藤殿と私たちでうまく取りしきっておる。それを壊されたくはない」
万千代「近藤は但馬を罠にかけここをかすめ取った当の本人ではないか! 井伊のものであったものを井伊が取り戻して何が悪い!」

万千代の言う通りだな。

おとわ「祖先の土地を取り戻した井伊の万千代はすごい、さすがじゃ、そう褒められたいだけ、ということじゃが……そう思うてよいのか」
万千代「それの何が悪い」

うん、別に悪くない。先祖伝来の本貫地を取り戻すのは、武家としてまっとうな行動原理。けなされる理由はありません。

そうした万千代をくだらぬと否定し、奪い、奪われる連鎖を断ち切らねばというおとわの思想は、既に戦国時代から乖離し、21世紀のレベルに飛躍しちゃってます。だから全然共感できない。

万千代「そのくだらぬことすらおできにならなかったのは、どこのどなたじゃ!」

万千代の言う通りだな。

万千代「殿はできぬことから逃げ出しただけではないか! 戦いから降りた者が戦いに口を出すなどもってのほか!」
おとわ「逃げて初めて見えるものもあるのだ!」
万千代「負け犬がたわ言をほざくな!」

万千代の言う通りだな。「逃げて初めて見えるものもある」というおとわの言にも一理あるのですが、その結果が当時の行動原理の否定となると、現実から目をそらして理想論を垂れているだけに聞こえてしまいます。

おとわ「さような考えなら、家督は決して譲らぬぞ」

お前、近藤に「武家に戻るつもりはございませぬ」と言ってなかったか。武家でないものが武家の家督を云々するのはお門違いじゃね? お前、帰農してたよな。ということは井伊谷のただの領民なのでは?

そして結局の所、おとわがヘンテコな理想主義を振りかざしているのは、近藤とよろしくやっている井伊谷についてだけ、というところが笑えます。いずれにせよ、万千代が1万石を与えられた事実に変わりはなく、そのためには「どこかの、誰かのものであった土地」が万千代に与えられるということ。おとわは、井伊谷を取り戻そうとして波風を立てるなと言いますが、井伊谷以外の土地であっても何らかの波風は立つのです。

自分の目に見える範囲の外であれば構わないという、実に薄っぺらい理想論なのでした。

そして祐椿尼死亡。嘆く連中より、椿に笑顔で手を合わせる傑山が良かった。

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