「功名が辻」へそくりで買った名馬の値段は?

カテゴリ:功名が辻
日時:2006/04/26 22:13

山内一豊が妻のへそくりで名馬を買うエピソードは有名だが、現代の貨幣価値に換算すると名馬とやらはいくらくらいになるのか?

NHKは、いつぞやのアバンタイトルで蔵米50石を年収500万円、黄金10枚を100万円としていた(妙にキリがいいな)。この年収では確かに高価な買い物だが、これはNHKのミスリードである。名馬購入当時の一豊の知行は2000石。10石=100万円のNHK説に従えば、2000石が年貢高なら年収2億円。収穫高であれば四公六民として年収8000万円。相応の家臣を召し抱えねばならぬとはいえ、100万円くらいどうにかなろう。というか、「名馬」という割りに100万円って安すぎないか?

大河ドラマ「功名が辻」で歴史考証を担当している小和田氏の著書「山内一豊 負け組からの立身出世学」によると、黄金10両は15~20貫。以前ネタにしたように1貫は1石であり、1石は140~150kgなので現代の米価に換算すると(同氏によれば)約8万円。よって、名馬の値段は120~160万円となる。NHK説よりも20~60万円のアップだ。

……米価といってもピンキリだからなぁ。ちなみに、「米の値段」というページによると、同じコシヒカリでも無農薬か減農薬かでも結構差がある。戦国時代の米に最も近そうな「無農薬玄米」140kgだと、7万8400円。150kgでは8万4000円。をを! 意外にイイせんいってるぞ、おい。

だが、小和田氏の「1貫=1石」説に反する説もあるのである。そちらの説に従うと、馬の値段はまったく違ってしまう。 山内一豊 土佐二十万石への道によると、黄金10両は銭15貫文であるという。そして、銭15貫文は米30石分であると記されている。つまり、同書では「1貫=2石」なのである。1石=約8万円を当てはめると、240万円。小和田説の2倍である。NHK説とは140万円も開きが生じた。

どうも米価ベースだと石と貫の換算率がバラついてしまう。ここは黄金を直接換算してみよう。

功名が辻」の原作において、司馬遼は当時の黄金1枚の重さを40匁としている。「しかし小説の記述だしなぁ」と思っていたら、前掲の「山内一豊 土佐二十万石への道」に、当時の黄金1枚は後の天正大判(44匁=165g)とほぼ同じ重さであり、40匁相当であったらしいという記述を見つけた。取りあえず、黄金1枚を40匁と仮定してもよさげである。

1匁は3.75gだから、これを400倍すれば黄金10枚の重さ1500gが求められる。金相場はおおむね1g=約2000円といったところなので、純金ならば約300万円強の価値があることになる。NHK説の3倍だ。ただ、天正大判の金含有量は70~74%(一説に73.8%)程度であり、へそくりの黄金も純金ではなかっただろう。仮に70%とすると、黄金10枚に含まれる金は1050gで210万円相当。一気に目減りしてしまったが、それでもNHK説の2倍強。

なお、当時は佐渡金山発見(1601年)以前のことであり、金はあまり流通していなかったはず。名馬購入時の黄金の価値はもっと高めに見積もってもいいかもしれない。

ちなみに、名馬購入エピの元ネタは新井白石の「藩翰譜」辺りと思われるが、どうも怪しい。馬を買ったのが安土城下の馬市とすると、購入時期は安土築城の天正4年から馬揃えの天正9年の間となる。一豊は天正5~9年の間、秀吉に従って播磨に出陣しており、馬揃えには参加していないという説もある。また、前述したようにこの時期には2000石取りになっており、へそくりがなくても楽勝で買えたであろう。司馬遼は、「分不相応に家臣を召し抱えていたため貧乏」としてつじつまを合わせていたが。

まぁ、名馬購入エピはフィクションなんだろうねぇ。