NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」 第10回 旅順総攻撃

カテゴリ:坂の上の雲
日時:2011/12/04 23:22

待ちに待った第3部がついに始まりました。3年にわたる放送に、当初「完結する前に死んでしまう人が出るのではないか」「ウチのじいちゃんは見れないかも」などという不謹慎なジョークが飛び交いました。

実際、坂の上の雲を楽しみにしつつ東日本大震災でなくなられた方もおられるでしょう。私の身近なところでは、まだ30代だった職場の同僚が、つまらない医療ミスでこの世を去ってしまいました。アイツにも見せてやりたかったな、と思うと、渡辺謙のナレーションだけで涙が抑えられませんでした。本当に、3年は長かった。

第3部は、1904年のロンドン、日銀副総裁としてはあり得ない安宿に泊まり、金策に奔走する高橋是清の場面から始まります。彼の苦悩を通して、日本が始めた日露戦争がいかに厳しいものであるかが語られます。

西田敏行の高橋是清は非常にハマっています。が、この是清のビジュアル、日銀副総裁時代(日露戦争時)としてはちと老けすぎなのでは。いや、当時50歳だからこんなものか? 是清単体としては問題ないんですが、どうも秋山好古5歳違いには見えないな、と……(高橋是清:1854年生まれ、秋山好古:1859年生まれ)。 転じて戦場へ。旅順口閉塞作戦に失敗した海軍は、陸軍に旅順要塞攻撃を依頼します。そもそも旅順については、当初「海軍がやるから陸軍は手を出すな」的なセクショナリズムがあったりして、実は海軍イタタタではあります。

こうして編成された第三軍が旅順を担当することに。正直なところ、放送前は「柄本明の乃木希典はミスキャストでは?」などと思っていたのですが、南山に登る乃木を見て安心しました。南山は、奥保鞏の第二軍が1904年5月25日~26日の戦闘で占領した地です。劇中で語られた通り、この南山の戦いには乃木希典の長男勝典が参加し、戦死しています。南山を登り、山頂を見上げる柄本明はまさに乃木。無言であるにもかかわらず、悲哀とそれを押しとどめる精神性が伝わってきた、すばらしい場面でした。

続いて7月12日、三笠で行われた陸海軍首脳会談。真之から旅順攻略の見通しを尋ねられた児玉源太郎ですが、砂糖をほおばったかのごとき甘い見通しを開陳します。陸軍全体がそのような認識だったので児玉だけを攻めるわけにはいきませんが、こんなヌルい総司令部の下で旅順を担当させられた第三軍も気の毒というものです。原作ではageageな児玉ですが、好古の報告を軽視してロシア軍の攻勢にパニくるなど、日本軍壊滅につながるような失策も多かったような。

ここで、旅順攻撃の戦略目標として、203高地の攻略と、同地を観測点とした旅順艦隊砲撃を主張する真之と、旅順要塞攻略を主張する児玉という構図が明確にされます。結果論からすると、旅順要塞攻略が正解だったといえるでしょう。また、早期に203高地だけを取っても、周りのロシア軍陣地・堡塁からタコ殴りにされて203高地を維持し続けるのは難しかったのでは。

今回は、兵たちの食事シーンもありました。皆さん、白米食べてますね。戦時兵食「白米6合」ですか。白米が食べられるのは兵役に就いた特典ですしね。でも、皆さんもうすぐ脚気になりますよ。

そして8月10日、旅順艦隊がウラジオストックに回航するため旅順から出航。こうして黄海海戦が始まるわけですが……残念ながら海戦シーンはなし。お楽しみは日本海海戦までとっておくことにしましょう。

続く8月19日。第三軍による第一回旅順総攻撃が開始されます。ロシア軍のすさまじい砲撃の中に突撃していく日本兵。要塞砲とマキシム機関銃によって次々に殺されていきます。見ていて涙が止まりません。

ドラマ上は1日くらいで終わってしまったように見えますが、この総攻撃は24日に中止されます。日本軍の損害は戦死5017人、負傷1万843人。海軍連絡将校 岩村団次郎はこの撤退命令を「たわけたこと」などと言っていましたが、妥当でしょう。ちなみに、ロシア軍の損害は戦死約1500人、負傷約4500人。この時点では大差がついていますが……。

第一回旅順総攻撃が終了した8月24日からは、黒木為楨の第一軍と奥の第二軍らによる遼陽会戦が始まります(9月4日まで)。総司令部にて、好古が偵察結果を報告。先の報告と矛盾するからと異論を挟む松川敏胤。ここは今後の伏線(松川の性格の表出)になっていますね。

遼陽会戦についても一応映像化されました。シーンそのものは大迫力でBSの5.1chサラウンドが有効に生かされていてすばらしい。が、戦闘の経過につてはざっくりしすぎ。原作のごとくイチイチ各会戦の経過を語っていてはドラマになりませんが、遼陽会戦については「秋山支隊がロシア軍側面を突いた」程度しか表現されていませんでした。

本国では、∀ガンダム長岡外史(大本営参謀次長)が登場して場を和ませます(違うか?)。「プロペラ髭」がステキ過ぎ。彼に有坂さんが28サンチ榴弾砲の投入を進言します。コイツがぶっ放される映像が実に楽しみです。

こうして前哨戦(9月19日~22日)を含めた第二回旅順総攻撃(10月26日~30日)が始まります。203高地攻撃が行われたのはこの前哨戦でのこと。前哨戦の損害は、日本軍が戦死924人、負傷3925人。ロシア軍が戦死約600人、負傷約2200人。第一回より差が縮まっています。

さらに、第二回総攻撃では日本軍戦死1092人、負傷2782人。ロシア軍が戦死616人、負傷4453人に。「防御側は攻撃側より3倍有利」であることを考えると、第三軍がいかに善戦しているかが分かります。ドラマでは日本軍の損害だけが語られ、ロシア軍の損害が無視されているので第三軍が一方的にボコられているような感じになっちゃってますが。

ちなみに、第三軍司令部に督戦に来た児玉。乃木の部屋で児玉と乃木だけで議論した後、児玉が乃木の部屋から参謀たちの前に出たとき、伊地知だけ立ち上がるのが遅かったのが目に付きました。伊地知の体調不良が始まっている演出? と思っていたら、後のシーンでは咳き込むなど、明らかに伊地知の体調が悪化しています。勅語を読み上げる乃木に対し、起立で答える参謀たち。ここでも伊地知が立ち上がるのが遅れる演出がありましたね。

第二回旅順総攻撃に先立つ10月9日には、ロジェストウェンスキーと愉快な仲間たちバルチック艦隊が出航しています。さてさて、彼らの愉快な旅についてはどれだけ語られるのでしょうか。ぜひ、ビビってイギリスの「漁船」を攻撃した話はしてほしいな。実は、1艦の落伍も出さずにあの大艦隊を極東まで引っ張ってきたのは凄いことなんですけどね。

それにしても、第3部のクオリティはすばらしい。いい年末になりそうです。

スペシャルドラマ「坂の上の雲」のキャストについては、「NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」キャスト(配役) 第3部補完版」をどうぞ。