NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」 第11回 二〇三高地

カテゴリ:坂の上の雲
日時:2011/12/11 22:22

今回は、第三回総攻撃(11月26日~12月6日)から。

原作と同様、203高地への攻撃を行わなかったのは第三軍の参謀の責任のような描写でした。が、実際に203高地への攻撃を拒否したのは満州軍総司令官の大山巌です。彼は御前会議における「203高地攻撃」の決定すら拒否しています。第三軍の指揮権は満州軍総司令官にある以上、第三軍が203高地を攻撃しないのは当然のことです。

こうして従来同様、11月26日から東鶏冠山と二竜山を主攻する総攻撃が開始されます。坑道による保塁の爆破など、ちゃんと描写されてましたね。

この日の夜に行われたのが、有名な白襷隊による攻撃。指揮官は、中村覚少将。中村覚が敵弾に斃れたところなどは描写されていましたが、イマイチ白襷隊の無残さが伝わってこなかったのは残念なところ。

11月27日から攻撃目標を203高地に変更しますが、ドラマではこれを発案・指示したのは乃木希典になっていました(実際に誰が主張したのか、私は知らないのですが……)。

203高地攻撃の場面では、銃を抱えて震えている兵の姿が印象的でした。また、ここに限らず戦闘シーンに時々挿入される止め画が良いです。多用しすぎないのも好印象。「レッドクリフ」の、これ見よがしに多用されるスローモーションなんて監督の自己満足が透けて見えて吐き気がしますが。 29日には、大迫尚敏率いる第七師団が203高地攻撃に投入されます。この大迫尚敏を演じる品川さんがまたいいんですわ。

大迫「俺たちがみんな死んだら何とか取れるじゃろうかいなぁ

私は戦場なんて知りませんがね、みんなこうして死んでいったんですかねえ(泣)。

そして30日、第七師団の歩兵第28連隊(隊長:村上正路)が203高地を奪取。この間に、伝令を努めた乃木保典が戦死。保典戦死の報を聞いた希典のリアクションというか場面の演出は、予想以上にあっさりしていて驚かされました。ベタでも、悲しみを押し殺すような演出をするものと思っていたのですが。

翌12月1日には早くも203高地は奪回されてしまい、旅順に南下中の児玉源太郎をぬか喜び&激怒させます。

12月1日から3日で陣地転換を行い、4日から本格的な203高地攻撃に入ります。ここで児玉源太郎が指揮を執ったのか否か。原作はもちろん、児玉源太郎と乃木希典の友情を軸に、児玉による指揮権奪取という展開。ドラマもこれを採用しています。

ちなみに「軍司令官」職は「親任官」つまり天皇が任命する職。児玉が現地の裁量で第三軍の指揮権を乃木から奪うのは天皇大権の侵犯ということになります。児玉が第三軍の指揮を執ったのか、単なる督戦あるいは助言者にとどまったのか。たとえ前者だとしても、公式な記録には絶対に残せませんねぇ。

そして再び大迫が登場。「北海道の兵は強いそうだが」という児玉に、

大迫「強うございました」「1万5000の兵が1000人になってしまいました」

品川さん……(泣)。特にね、「強うございました」というのがたまりません。

ちなみに、原作では児玉の問いかけに大迫は「左様でございます、強うございます」と現在形で答え、司馬遼に「正確には強かったというべきであろう」とツッコまれています。勝手な想像ですが、大迫は一兵でも残っていれば現在形を使ったような気がします。ただ、1000人しか残っていないのに「強うございます」と答える気概をドラマで表現するのは難しいですね。ドラマという形式の中では、過去形でよかったのだと思います。


さあ、4日~5日に行われた203高地攻撃の始まりです。装填から発射までの28サンチ榴弾砲の描写が細かくて感無量。ちゃんと砲架が駐退してます。もっと見たかったなぁ。

ついに、占領の瞬間がやってまいりました。

山頂に翻る国旗(泣)。

観測兵:「203高地山頂、高崎山、応答願います」
児玉:「そこから旅順港は見えるか?」
観測兵:「見えます! 丸見えであります!

(泣)

第三回総攻撃は完了。日本軍戦死5052人、負傷1万1884人。ロシア軍戦死5308人、負傷約1万2000人。防御側圧倒的有利な時代に、ロシア軍の損害が日本軍を上回る結果に終わりました。第三軍の奮戦は賞賛に値すると言えましょう。

こうして激戦の末に完全占領した203高地に観測所を設置。ここでの観測を基に28サンチ榴弾砲を旅順港に打ち込み、ロシア太平洋艦隊いわゆる旅順艦隊を壊滅させた、ということになっています。時々勘違いした人を見かけますが、203高地山頂に28サンチ榴弾砲を設置したわけではありません。

ただ、「坂の上の雲」における203高地および28サンチ榴弾砲の意義については見直しが必要でしょう。まず、旅順艦隊の破壊と28サンチ榴弾砲には関係がありません。戦後の調査によると、旅順艦隊は全て、キングストン弁を開いたことによる自沈だったことが判明しています。28サンチ榴弾砲の砲弾は艦船に命中しても致命傷は与えられなかったそうです。28サンチ榴弾砲は、対要塞戦の戦果も大したことはなかった、という説もあります。砲弾が轟音とともに飛来してくるので心理的な影響はあったようですが、土にめり込むばかりで破壊力は大してなかったとか。

柄本明の乃木については否定的な意見も多いようですが、私は結構気に入っています。203高地を視察する乃木(12月6日)のシーンなど、非常に雰囲気が出ていたと思います。村田雄浩の伊地知幸介も好きでしたね。原作同様、児玉に対して弾をよこさないと苦情を言い、「そこを何とかするのがお前の仕事だ」と逆ギレされてましたが、砲弾不足についてはどう考えても軍上層部が悪い。上の無能のツケを現場に回してるだけだって、児玉さん。

旅順攻略戦を現代の会社に例えると、

大本営:命令権はないのに口を出したがる会長
満州軍総司令部:現場のことは分からないくせに文句を言うしか能のない社長
第三軍:それなりの結果は出しているのに、現実離れした売上目標に達していないと叱られる事業部

会長も社長も実は結構無能で判断ミス多数。現場を機能させるためのリソース確保が自分たちの仕事なのに大失敗。挙げ句の果てに事業部に責任転嫁。現場が結果を出しても評価しない。ダメな経営層の典型。本当に酷い。

第三軍も非難すべき点はいろいろあると思うけど、世界で初めて近代要塞の攻略に成功したこと、それが「たったの半年しかかかっていない」ことはもっと評価してもいいと思うけどなぁ。

なお、エンディングで「児玉久子」の名がありましたが、これは源太郎の姉かつ義母(源太郎義父児玉忠炳の妻)のこと。源太郎少年時代に部屋で震えていた女性ですね。


スペシャルドラマ「坂の上の雲」のキャストについては、「NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」キャスト(配役) 第3部補完版」をどうぞ。